「もう70歳を過ぎている。今さら手術なんて無理だろうか」
「持病があって薬も飲んでいる。断られてしまうのでは」
「まぶたが重いのは年のせいだから、我慢するしかないと思っていた」
診察室で、こうした言葉を本当によく耳にします。ご自分で「年齢を理由に無理だ」と結論を出してから、それでも気になって足を運んでくださる方が多いのです。
この記事は、形成外科専門医として20年以上まぶたの治療を専門に行ってきたDr.簗(やな)由一郎監修のもと、60代・70代以降の方が眼瞼下垂(がんけんかすい)の手術を考えるときに知っておいていただきたいことを、正直にご説明しますね。
年齢そのものより何が判断を分けるのか、どんなリスクに注意が必要か、そして高齢の方に向く方法があるのかを順にお伝えします。
も く じ
Toggle「年だからもう手術は無理」と思っていませんか

まずお伝えしたいのは、眼瞼下垂の手術に、これを超えたら受けられないという年齢の上限はない、ということです。
判断を分けるのは暦の年齢ではなく、全身の状態と、手術で何を良くしたいのかという目的のほうです。年齢が高くても、全身の状態が落ち着いていて、日常生活での困りごとがはっきりしていれば、手術は検討できます。逆に、年齢が若くても全身の状態によっては慎重に検討することがあります。
高齢の方のまぶたに起きていること
年齢を重ねてから起こる眼瞼下垂の多くは、腱膜性眼瞼下垂(けんまくせいがんけんかすい)と呼ばれるタイプです。
まぶたは、眼瞼挙筋(がんけんきょきん)という筋肉の力が、挙筋腱膜(きょきんけんまく)という薄い膜を通してまぶたのふちに伝わることで開きます。この腱膜が長年のまばたきや加齢で少しずつゆるみ、力がうまく伝わらなくなった状態です。
もうひとつ、高齢の方に多いのが、上まぶたの皮膚のたるみが同時に起きているケースです。挙筋の問題と皮膚の問題が重なっていることが多く、どちらが主な原因かによって、選ぶ手術が変わってきます。
「たるみだけ」なのか「開く力の低下」なのかで方針が変わります
ご自身では区別がつきにくいところですが、ここは診察で確認します。まぶたを持ち上げる力そのものは保たれていて、余った皮膚が視界をふさいでいるだけ、というケースも少なくありません。
その場合は、まぶたの筋肉に手を加えずに済むこともあります。たるみと眼瞼下垂の違いについては、こちらの記事で詳しくお伝えしています。
高齢の方が手術で得られること|見た目より「見える」が先

若い方の相談は見た目の悩みが中心になることが多いのですが、年齢を重ねた方の場合、生活のしづらさが理由の中心になります。
まぶたが視界の上のほうをふさいでいると、こんな困りごとが起きます。
- 足元や段差が見えにくく、外を歩くときに不安がある
- 階段の上りより下りが怖い
- 車の運転で、信号や標識を見上げるのがつらい
- 本や新聞を読んでいると、まぶたが重くて集中が続かない
- 額に力を入れて目を開ける癖がつき、頭痛や肩こりにつながる
- 眠そう、機嫌が悪そうと言われて、人に会うのが億劫になる
手術でまぶたが持ち上がると、視界の上側が広がります。見えやすくなることで足元への不安がやわらいだ、外出が楽になったとおっしゃる方は多いです。額に入っていた無駄な力が抜けて、頭が軽くなったと感じる方もいらっしゃいます。
頭痛や肩こりとまぶたの関係については、こちらの記事もあわせてご覧ください。
なお、白内障の手術を予定している方は、どちらを先にするかで迷われることがあります。順番の考え方は別の記事にまとめています。
年齢とともに注意が必要になること

正直にお伝えすると、年齢を重ねるほど気をつける点は増えます。ここを飛ばして「何歳でも大丈夫です」とは言えません。
飲んでいるお薬との兼ね合い
いちばん確認が必要なのが、血液をさらさらにするお薬です。心臓や脳の病気で抗血栓薬・抗凝固薬を飲んでいる方は、手術中や術後の出血、内出血が強く出やすくなります。
大切なのは、これらの薬を自己判断で中止しないことです。まぶたのために薬を止めた結果、命にかかわる病気のリスクが上がっては本末転倒です。中止できるかどうか、いつから何日間かは、処方している主治医の判断が必要になります。診察のときに、お薬手帳をそのままお持ちください。
持病と全身の状態
高血圧、糖尿病、腎臓や心臓の持病がある方は、血圧のコントロール状況や血糖の状態によって、手術の時期を調整することがあります。糖尿病では傷の治りがゆっくりになることもあります。
眼瞼下垂の手術は多くの場合、局所麻酔の日帰り手術です。全身麻酔ほどの負担はかかりませんが、当日は手術台で一定時間じっとしていただく必要があります。腰や膝が痛い方は、あらかじめお伝えください。
目の乾きと、まぶたを閉じる力
年齢とともに、涙の量が減ってドライアイになりやすくなります。また、まぶたを閉じる眼輪筋(がんりんきん)の力も弱くなっていきます。
まぶたを大きく開くようにすると、その分だけ目の表面が乾きやすくなり、術後にゴロゴロ感や乾きが出ることがあります。ですから高齢の方の手術では、開きすぎないところで止める判断も大切になります。どこまで上げるかは、見た目の希望だけでなく、目の表面を守れるかどうかで決めていきます。
内出血は出やすく、引くのに時間がかかります
皮膚が薄く、血管がもろくなっているぶん、若い方より内出血が広く出やすい傾向があります。引くまでの時間も長めになります。
これは失敗ではなく、経過として想定される範囲のことです。とはいえ、予定を組むときは余裕を持っておいていただくと安心です。
高齢の方に向く術式と、保険適用の考え方

眼瞼下垂の治療にはいくつかの方法があり、状態によって向き不向きがあります。
挙筋前転法(保険適用になることが多い)
ゆるんだ挙筋腱膜を短くして、まぶたのふちに力が伝わるようにする方法です。まぶたを開ける力そのものが落ちている場合の基本になります。視野の狭さなど機能的な症状があれば、保険適用で受けられることが多い手術です。
眉下切開法(場合により保険適用)
眉のすぐ下で余った皮膚を切除して、上まぶたの重なりを取る方法です。まぶたの開く力は保たれていて、皮膚のたるみが視界をふさいでいる方に向きます。まぶたの形が変わりにくく、傷が眉に隠れやすいのが利点です。
切らない眼瞼下垂手術(原則自費)
メスを使わず、糸で挙筋を補強・調整する方法です。腫れが少なく、ダウンタイムが短いのが特徴で、軽度の方に向きます。原則として自費診療になり、糸がゆるむ可能性があるという弱点もあります。
高齢だと糸の手術はできないと思っている方が多いのですが、そんなことはありません。高齢の方でも埋没法を応用することは可能です。挙筋の働きが保たれていて、余った皮膚が視界をふさいでいる場合には、挙筋を短くせずに糸で皮膚だけを処理する方法もあります。体への負担が少なくて済むぶん、喜ばれることも多い方法です。
費用の目安としては、保険適用(3割負担)で両目およそ35,000円から45,000円、自費診療では15万円以上と幅があります。金額は施設や術式によって変わりますので、診察のときに個別にご説明します。
組み合わせて行うこともあります
まぶたを開ける力の低下と皮膚のたるみが両方ある場合、挙筋前転法と皮膚の処理を同時に行うこともあります。ただし、一度に多くの操作を加えれば、そのぶん腫れも長く残ります。
ご年齢や全身の状態によっては、まず負担の少ない方法で視野を確保して、必要があれば後から追加する、という進め方を選ぶこともあります。一度で仕上げきるか、段階的に進めるか。ここは生活の状況を伺いながら、一緒に決めていきます。
保険と自費の違いについては、こちらの記事で整理しています。
相談に来られるときに、用意していただきたいもの

年齢が上がるほど、確認したい情報が増えます。次のものをお持ちいただけると、その日のうちに具体的な話まで進められます。
- お薬手帳(血液をさらさらにする薬を飲んでいるかどうかが特に重要です)
- かかりつけの病院名と、通院している科
- 最近受けた健康診断や血液検査の結果があれば、そのコピー
- いつごろから、どんな場面で困っているかのメモ
- 手術になった場合に送迎をお願いできる方がいるか
ご家族と一緒に来ていただくのも歓迎です。ご本人は「これくらい平気」とおっしゃっても、周りの方が「最近つまずくことが増えた」と気づいていることがあります。両方のお話を伺えると判断の精度が上がります。
次のような症状があるときは、様子を見ずに早めに受診してください。
- 急にまぶたが下がった、数日から数週間で進行した
- 物が二重に見える、目が動かしにくい
- まぶたの下がりに加えて、頭痛や吐き気、手足の力の入りにくさがある
- 夕方になると急に下がるなど、時間帯で症状が大きく変わる
これらは加齢による眼瞼下垂とは別の病気が隠れていることがあり、まぶたの手術より先に調べるべきことがあります。
Dr.やなが高齢の患者さんに向き合うときに考えていること
私は20年以上、数千例の眼瞼下垂手術を行ってきました。年齢を重ねた患者さんを診るときに、いつも考えていることが2つあります。
ひとつは、体への負担を最小限にすることです。視野の改善が目的であれば、必ずしも大きな手術をする必要はありません。侵襲の少ない方法で目的を達成できるなら、そちらを選びます。必要最小限の治療をご提案するのが、私のモットーです。
もうひとつは、形にもこだわりたいということです。挙筋前転法では、三角目やびっくり目にならない自然な瞼縁(けんえん)のカーブを作ることを大切にしています。手術中に患者さんご本人にも鏡で確認していただきながら調整します。保険適用の手術でも、形成外科医として形にこだわりたいと考えています。
年齢を理由に、見た目は二の次でいい、とは思いません。何歳であっても、鏡を見たときの気持ちは変わらないはずですから。
そして、高額な手術へのご誘導は一切いたしません。機能的な症状があれば保険適用をまず検討します。手術をしないほうがよいと判断すれば、正直にそうお伝えします。
よくある質問
高齢の方の眼瞼下垂手術について、よくいただくご質問にお答えしますね。
家族に反対されています。どう考えればいいでしょうか
ご家族が心配されるのは自然なことです。反対の理由が、体への負担なのか、費用なのか、必要性が伝わっていないのかで、話の進め方は変わります。診察にご一緒いただいて、私から直接ご説明することもできます。その場で決める必要はありませんので、まず話を聞きに来ていただくだけでも構いません。
認知症の家族がいます。本人が手術の意味を理解できなくても受けられますか
ご本人が手術の内容や術後の過ごし方をどこまで理解できるかは、判断のうえで大切な要素になります。術後は目を触らない、指示された薬を使うといった協力が必要になるためです。程度によって対応が変わりますので、ご本人の状態とご家族の支援体制を伺ったうえで、一緒に考えさせてください。
一度に両目を手術しますか。片目ずつのほうが安心ですか
両目を同時に行うことも、片目ずつ行うこともあります。両目同時なら通院や休養の期間が一度で済み、左右のバランスも取りやすくなります。一方で、術後しばらくは見えにくさや腫れが両目に出ます。生活の状況やお一人での過ごしやすさによって変わりますので、診察でご相談ください。
手術のあと、また下がってくることはありますか
年齢を重ねるとともに、皮膚や組織の変化は続いていきます。ですので、一度手術をすれば一生このまま、と言い切ることはできません。ただ、多くの方は長い期間、改善した状態で過ごされています。気になる変化が出てきたときに相談できる先を持っておくと安心です。
通院が大変です。何回くらい通うことになりますか
一般的には、手術前の診察、手術当日、1週間前後の抜糸、その後の経過確認、という流れになります。通院の負担が心配な方は、その点も含めてご相談ください。私は埼玉を中心に、東京・茨城の複数の施設で診察と手術を担当していますので、通いやすい場所からお選びいただけます。送迎をお願いできる方がいるかどうかも、あらかじめ教えていただけると助かります。
まとめ|年齢ではなく、状態と目的で決まります
最後に、この記事の要点を整理します。
- 眼瞼下垂の手術に年齢の上限はなく、判断を分けるのは全身の状態と手術の目的
- 高齢の方は「開く力の低下」と「皮膚のたるみ」が重なっていることが多い
- 血液をさらさらにする薬を飲んでいる方は、自己判断で中止せず、処方している主治医に相談する
- ドライアイやまぶたを閉じる力の低下があるため、開きすぎないところで止める判断も大切
- 挙筋前転法(保険適用になることが多い)・眉下切開法(場合により保険適用)・切らない手術(原則自費)から、状態に合う方法を選ぶ
- 高齢でも埋没法の応用は可能で、負担の少ない選択肢になることがある
「年だから」と諦めてしまう前に、一度状態を見せていただきたいと思います。何もしないという結論になったとしても、その理由がはっきりすれば、気持ちは軽くなるはずです。
効果や経過には個人差があります。ここでお伝えした内容は一般的な目安で、実際に手術が可能かどうかは診察と全身の状態によって変わります。正確な診断は、形成外科・眼科などの専門医にご相談ください。
まぶたのお悩みは、どんな小さなことでもかまいません。「手術するほどなのか、まだ様子を見ていいのか知りたい」というご相談も大歓迎です。無理な勧誘はいたしませんので、無料相談フォームからお気軽にお声がけください。



